不誠実な行為による解雇:社内調査がなくても使用者が正当な理由を認められた事例

結果
労働裁判所は、使用者が、従業員による意図的な在庫データの改ざんに加え、パスワードの共有と回復不能な信頼の喪失が重大な非違行為に当たることを、証拠の優越の基準で立証したと判断しました。不当解雇の請求は全面的に棄却されました。
事件の背景と戦略
不誠実を理由とする事件は、ある意味で最も防御しやすい解雇であると同時に、最も負けやすい解雇でもあります。防御しやすいのは、会社の記録を改ざんする従業員は、雇用関係が依拠する信頼を正面から損なうからです。負けやすいのは、使用者が手続きを省略しがちで、労働裁判所が求めているのは憤りではなく証拠だと後になって気づくことが多いからです。最近のある裁定は、使用者が正しく対応した例を示しています。社内調査(domestic inquiry)が一度も行われなかったにもかかわらず、従業員自身の自認をきちんと記録した資料が決め手となりました。
この事例解説では当事者の名前を伏せ、原則、勝訴につながった主張、実務上の教訓を紹介します。その論理は、不誠実やデータ改ざんを理由に従業員を解雇するマレーシアのあらゆる使用者に広く当てはまり、特に従業員が長年の勤続、研修の不足、あるいは単に指示に従っただけだと主張する場合に有用です。
| 結果:裁判所は、使用者が、従業員による意図的な在庫データの改ざんに加え、パスワードの共有と回復不能な信頼の喪失が重大な非違行為に当たることを証拠の優越の基準で立証したと判断しました。不当解雇の請求は全面的に棄却されました。 |
事件の概要
| 従業員 | 多国籍メーカーの工場に長年勤める倉庫監督者で、約11年の勤務を経て職位が確定し、原材料と完成品の在庫の正確性に責任を負っていました。 |
| 役割 | 在庫データの管理者として、正確な在庫残高を維持し、再棚卸しを行い、工場の生産と購買の判断が依拠する在庫システムを運用していました。 |
| 何が起きたか | システム上の在庫が実際の在庫を大きく上回っていたことから、説明のつかない大規模な原材料の「減耗」(約350トンのトウモロコシ、約197,000米ドル)が発覚しました。内部監査により、監督者が報告上の損失を0.5%のKPI以内に収めるためにデータを改ざんし、システムのパスワードを共有し、同僚のIDでログインしていたことが判明しました。 |
| 従業員の主張 | 改ざんの主張には根拠がない、上司の指示に従っただけである、11年勤続している、適切な研修も警告書も弁明の機会も社内調査もなかった、解雇は重すぎる、というものでした。 |
| 使用者の主張 | 自認され文書化された在庫データの改ざんは不誠実に当たり、行動規範とデータ保護・職務分離の方針に違反し、6桁の損失を生じさせ、まさにそのデータを守るために雇われていた従業員への信頼が回復不能なまでに失われた、というものでした。 |
| 認定 | 証拠の優越の基準で重大な非違行為が認められ、解雇は均衡がとれており、正当な理由があるとされました。 |
裁判所が適用した法的枠組み
この紛争は1967年労使関係法第20条に基づいて付託されました。裁判所の任務は、おなじみの二段階の審査でした。第一に、問題とされた非違行為が認められるか、第二に、立証された行為が解雇の正当な理由に当たるかです。
3つの確立した原則が分析の枠組みとなりました。
1. 立証責任は全面的に使用者にある
解雇事件では、使用者は、従業員が問題の非違行為を行ったことについて説得力のある証拠を提出しなければなりません。従業員の有責を立証すべきなのは使用者であり、従業員が自らの潔白を立証する必要はありません。裏付けのない不誠実の主張は審査に耐えません。
2. 基準は証拠の優越である
使用者は、合理的な疑いを超える程度まで立証する必要はありません。民事の基準が適用され、主張の重大性に応じて柔軟に運用されます。したがって、不誠実のような重大な主張には確かな説得力のある証拠が必要ですが、基準はあくまで証拠の優越です。
3. 誠実義務への違反はすべて非違行為である
すべての雇用契約には黙示の誠実義務が伴います。従業員は誠実に勤務し、使用者の利益に配慮しなければなりません。職務の誠実な遂行と相いれない行為はすべて非違行為であり、使用者を欺くために記録を改ざんすることは、その中でも最も重いものに当たります。
使用者が勝訴した理由
この裁定を決めたのは、正式な調査の有無ではなく、証拠ときちんと記録された自認でした。5つの柱が防御を支えました。
自認が決定的な役割を果たした
調査の過程で、従業員は在庫データの改ざんを認めました。締め処理のファイルで使用量を水増しし、月初と月末に無許可の再棚卸しを行って報告上の減耗をKPI以内に収め、新たな在庫発注を発生させてから記録を元に戻していたというものです。これらの自認を記録した署名入りの調査要約書があったため、後から非違行為の認定を争うことは非常に困難になりました。このような自認は、従業員が自分のしていることを十分に理解していたことを示します。
「指示に従っただけ」は抗弁にならない
従業員は、上司の指示に従って行動したとして、責任を上司に転嫁しようとしました。裁判所はこれを受け入れませんでした。従業員が従う必要があるのは適法かつ合理的な指示だけであり、記録を改ざんせよという指示はそのどちらでもありません。仮にそのような指示があったとしても、正しい対応はそれを実行することではなく報告することであり、しかもそのような指示があったという証拠はありませんでした。違法な命令に盲目的に従っても非違行為は免責されず、かえって部下を共犯者にしてしまいます。
部下が従わなければならないのは、適法かつ合理的な指令または指示だけである。疑わしく明らかに違法な指示には従うべきではなく、それに従うことは、実際には部下を共犯者にすることになる。――「命令に従っただけ」が抗弁にならない理由についての控訴裁判所の判示
社内調査はなかったが、致命的な欠陥ではなかった
解雇の前に社内調査が行われなかったことについては争いがありませんでした。それでも使用者は敗れませんでした。社内調査を行わなかったこと、あるいは欠陥のある調査を行ったことは致命的ではありません。労働裁判所は証拠に基づいて事件を改めて審理するため、手続き上の欠陥は労働裁判所での審理によって治癒されます。いずれにせよ、本件の使用者は従業員に対し、監査チームとの面談、弁明要求書、書面で回答する機会、調査面談を提供しており、意見を述べる機会は十分にありました。
長年の勤続と経歴の良さは盾にならない
従業員は、11年の勤続と過去に警告を受けていないことを強調しました。裁判所はこれらを考慮すべき事情として認めましたが、決定的なものとはしませんでした。経歴に傷のない従業員を一度の非違行為で解雇できないという固定的なルールはなく、行為の重大性によって決まります。不誠実のように重大で深刻な行為であれば、一度だけでもそれ自体で解雇を正当化し得ます。
核心は信頼の喪失である
誠実さと高潔さは、職位にかかわらず妥協の許されない資質です。会社の在庫データの完全性を託された監督者として、従業員は信頼される立場にありました。守るために雇われていたまさにその記録を改ざんしたことで、彼はその役割が依拠する信頼を壊しました。信頼が回復不能なまでに失われた場合、解雇は正当化されます。また、処分の選択は使用者の権限であり、裁判所が軽々しく覆すことはありません。
使用者のための実務上の教訓
- 自認は書面に残すこと。従業員が署名し同意した、日付入りの調査要約書は、不誠実の事件で最も強力な証拠です。認めた内容を、できる限り従業員自身の言葉で記録してください。
- 可能であれば社内調査を行うこと。本件では調査の欠如が再審理によって治癒されましたが、それは計画ではなく安全網と考えるべきです。適切に行われた調査は、攻撃の筋道を丸ごと封じます。
- 目に見える公正な手続きを行うこと。弁明要求書、実質的な回答の機会、調査面談によって、裁判所が求める手続きの公正さが示されました。結論が初めから決まっていたと思わせる内容を記録に残さないでください。
- 主張を明確にし、立証すること。「研修を受けたことがない」「英語が分からない」といった、後から出てきた書面主張にない言い訳は退けられました。当事者は自らの書面主張に拘束され、しかもその言い訳は証拠と矛盾していたからです。主張を正確に組み立て、各要素について証拠を提出してください。
- 金額ではなく信頼を軸にすること。6桁の損失も重要でしたが、決定的だったのはデータ管理者による信頼の裏切りでした。誠実さと職務の完全性を軸に解雇を位置づけてください。
- アクセス管理を徹底すること。パスワードの共有や共用ログインは職務分離を無力化し、あらゆる監査証跡を弱めます。それ自体を非違行為として扱い、取り締まってください。
まとめ
信頼される立場にある従業員の不誠実は、マレーシア法が認める最も強力な解雇理由の一つですが、使用者はなおそれを立証しなければなりません。従業員自身の自認が記録され、主張が適切に構成され、公正な手続きが行われていれば、長年の勤続も、傷のない経歴も、「命令に従っただけ」という主張も解雇を覆すことはできず、社内調査の欠如も通常は労働裁判所での再審理によって治癒されます。すべての解雇事件と同じく、勝敗を決めるのは書類です。
検討された判例
- Milan Auto Sdn Bhd v Wong Seh Yen [1995] 4 CLJ 449――労働裁判所の二つの機能。
- Goon Kwee Phoy v J & P Coats (M) Bhd [1981] 2 MLJ 129――裁判所は使用者が示した理由を審査する。
- Stamford Executive Centre v Dharsini Ganeson [1986] ILR 101――使用者は有責についての説得力のある証拠を提出しなければならない。
- Telekom Malaysia Kawasan Utara v Krishnan Kutty Sanguni Nair [2002] 3 CLJ 314――証拠の優越の基準。
- Zaharen Hj Zakaria v Redmax Sdn Bhd [2016] 7 CLJ 380――従う必要があるのは適法かつ合理的な指示のみ。誠実義務。
- Wong Yuen Hock v Syarikat Hong Leong Assurance Sdn Bhd [1995] 2 MLJ 753――社内調査の欠如は再審理によって治癒される。
- Hong Leong Equipment Sdn Bhd v Liew Fook Chuan [1997] 1 CLJ 665――社内調査の結論は労働裁判所を拘束しない。
- Ranjit Kaur S Singh v Hotel Excelsior (M) Sdn Bhd [2010] 8 CLJ 629――当事者は自らの書面主張に拘束される。
- Norizan Bakar v Panzana Enterprise Sdn Bhd [2013] 6 MLJ 605――裁判所は処分の均衡を考慮しなければならない。
- Harianto Effendy Zakaria v Mahkamah Perusahaan Malaysia [2014] 4 ILR 241――長年の勤続と傷のない経歴は自動的な盾にはならない。
- Lim Phooi Man v Samsung Malaysia Electronics (SME) Sdn Bhd [2019] 2 ILR 540――回復不能な信頼の喪失は解雇を正当化する。
よくある質問
マレーシアでは、不誠実や記録の改ざんを理由に従業員を解雇できますか?
できます。会社の記録の改ざんや偽造を含む不誠実は重大な非違行為です。証拠の優越の基準で立証され、その職務に必要な信頼を損なうものであれば、長年勤続し経歴に傷のない従業員であっても、解雇に正当な理由が認められ得ます。
「上司の指示に従っただけ」は有効な抗弁になりますか?
一般にはなりません。従業員が従う必要があるのは適法かつ合理的な指示だけです。記録の改ざんのように違法だと分かっている指示に従っても非違行為は免責されず、共犯者とされるおそれもあります。従業員には、不正を実行するのではなく報告することが求められます。
使用者は非違行為を理由に解雇する前に、必ず社内調査を行わなければなりませんか?
良好な労使慣行としては望ましいものの、社内調査を行わなかったことは致命的ではありません。手続き上の不備は、使用者が改めて証拠を提出する労働裁判所での再審理によって治癒され得ます。それでも、適切な調査を行う方が安全です。
長年の勤続や懲戒歴のなさは、従業員を解雇から守りますか?
自動的には守りません。長年の勤続と傷のない経歴は考慮される事情ですが、解雇を禁じる固定的なルールはありません。不誠実のように一度の非違行為が重大で深刻であれば、解雇が正当化されることがあります。
従業員は、書面主張にない新しい言い訳を労働裁判所で持ち出せますか?
通常はできません。当事者は自らの書面主張に拘束されます。審理で初めて持ち出され、証拠の裏付けもない言い訳は、裁判所に考慮されない可能性が高いでしょう。
不誠実や非違行為を理由とする解雇の問題でお悩みの方は、NZSKにご相談のご予約をください。当事務所は、マレーシア労働裁判所における非違行為と不当解雇の案件で、使用者と従業員を代理しています。当事務所の労働法業務と雇用分野の勝訴事例もご覧ください。
Messrs Ng, Zainurul, Seke & Khoo(NZSK)は、クアラルンプールのモントキアラ(Mont Kiara)とスランゴール州プチョン(Puchong)に事務所を構えるマレーシアの法律事務所です。パートナーの Khoo Ai Theng 弁護士は、2014年からマラヤ高等裁判所の法廷弁護士兼事務弁護士(Advocate & Solicitor)として、労働裁判所および高等裁判所の雇用紛争で使用者と従業員を代理しており、『Malaysian Employment & Industrial Relations Law』の共著者でもあります。
Khoo Ai Theng
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